Law of animal

動物六法

獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針

〜目次〜
条文
第1獣医療の提供に関する基本的な方向
第2診療施設の整備及び獣医師の確保に関する目標の設定に関する事項
第3獣医療を提供する体制の整備が必要な地域の設定に関する事項
第4診療施設その他獣医療に関連する施設の相互の機能及び業務の連携に関する基本的事項
第5獣医療に関する技術の向上に関する基本的事項
第6その他の獣医療を提供する体制の整備に関する重要事項

獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針

令和 02年 05月 27日 農林水産大臣

 獣医療法(平成4年法律第46号)第10条第1項の規定に基づき、令和12年度を目標年度とする獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針を次のとおり定めたので、同条第5項の規定に基づき、公表する。

獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針

第 1 獣医療の提供に関する基本的な方向
 1 近年の獣医療を取り巻く情勢の変化について
 我が国における獣医療の提供体制の整備については、これまでも国と都道府県が連携しながら着実に進められ、飼育動物の診療、保健衛生指導等を通じて、畜産業の発展、動物の保健衛生の向上及び公衆衛生の向上に成果を上げてきた。
 平成4年に獣医療法が制定され、同法に基づき第一次の獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針(以下「基本方針」という。)を取りまとめ、産業動物の診療を行う獣医師の確保や診療施設の整備等を通じた地域獣医療の整備に関する取組を進めてきた。平成12年には第二次の基本方針を取りまとめ、同年の口蹄疫の国内発生を契機に緊急時を想定した組織的な家畜防疫体制の確立に向けた取組の強化を推進してきた。平成22年に取りまとめた第三次の基本方針においては、同年の口蹄疫の国内発生を踏まえ、我が国畜産業の安定的な発展を図るため、家畜伝染病の大規模な発生に対する危機管理体制の再点検・強化とともに、緊急時に最前線で防疫措置を実施する獣医師の養成・確保の強化の取組を進めてきた。
 一方、近年の獣医療を取り巻く状況には著しい変化が見られ、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)、豚熱(CSF) 及び口蹄疫の国内発生や、国際的な懸念となっている薬剤耐性菌の増加は、我が国における畜産物の安定供給や食品の安全性の確保に対する考え方について再検討を行う契機となっている。また、人や物の移動の拡大等グローバル化の進展等に伴う新興・再興感染症の侵入・発生のリスクの増大に対して、人、飼育動物及び野生動物並びにこれらを包含する生態系の健康を一体的に維持するという「One Health」の考え方に基づいた学術研究や感染症予防・管理対策、家畜衛生・公衆衛生のニーズに対応した様々な取組が、国際機関を含む国際社会において協調して進められている。そのため、これらの取組を支える獣医師に対する国際的・社会的ニーズと果たすべき責任の急速な増大とともに、それを担う獣医師の養成・確保が必要となっている。
 さらに、国民生活の質が向上し価値観が多様化する中で、国民生活に欠かせない安全で良質な畜産物の安定供給とともに、動物の愛護や適正な飼養に関する意識の向上に伴う飼育責任への認識が広がり、いわゆるチーム獣医療の提供体制の整備を図るため、動物看護職の技能·知識を高位平準化するための取組が進められ、統一資格化が図られた。この取組を踏まえ、令和元年6月に愛玩動物看護師法(令和元年法律第50号)が制定され、愛玩動物看護師が国家資格化されたところである。引き続き、消費者や飼育者からの期待に応えるため、国民生活における獣医療の適切な確保と質の向上を推進し、獣医師がその専門的知識や技術を発揮して職務責任を果たしていくことが重要であり、このための獣医療に携わる関係者のより一層の努力が必要である。
  (1) 食料の生産現場における獣医師の役割
 国内でのHPAI 、CSF 及び口蹄疫の発生により畜産農家の経営が脅かされ、また、薬剤耐性菌対策等による安全で良質な畜産物の安定供給に対して、消費者の大きな関心が注がれている。獣医師は、日頃の飼養衛生管理の指導や家畜伝染病の発生時における家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)に基づく的確な診断と防疫対応を担うほか、家畜改良増殖法(昭和25年法律第209 号)、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35 年法律第145 号)等、その他の畜産関係法令の規定においても重要な役割を担っており、食品の安全性の向上や畜産の振興を図る上で、これらに的確に対応できる獣医師の養成・確保が期待されている。
 このような状況において、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)に基づき策定された「食料・農業・農村基本計画」、酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(昭和29 年法律第182 号)に基づき策定された「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」及び養豚農業振興法(平成26年法律第101 号)に基づき策定された「養豚農業の振興に関する基本方針」を踏まえた畜産振興が図られる中、獣医師は、適切な獣医療の提供を通じて、家畜の伝染性疾病の発生予防や的確な防疫措置、家畜改良、飼養管理の改善等による生産性向上や省力化等による畜産の生産基盤の強化をサポートし、さらに、産業動物獣医師等の養成・確保や診療技術の高位平準化を図ることにより、国民への安全な畜産物の安定供給に寄与することが求められている。
 また、病原微生物や有害化学物質による畜産物のリスクの低減を図るため、HACCP 等の考え方を農場段階で活用した飼養衛生管理の実践が必要となっている。さらに、畜産業における飼養規模の拡大と集約化が進展する中で、畜産現場では、農場単位や群単位での管理形態が普及しており、生産者からは、予防衛生に基づく生産獣医療の提供に対する要請が高まっている。このため、獣医師に対して、従前にも増して伝染性疾病の予防や食品安全、農場の収益性向上につながる農場単位や群単位での管理に適した飼養衛生管理の指導や集団管理衛生技術等の提供、さらには、農場HACCP 、畜産GAP の導入・普及時における指導等、幅広い獣医療の提供が要請されるようになっている。
 このように獣医師の社会的責任や期待が高まる中、生産者、消費者等からは、良質かつ適切な獣医療を提供する獣医師の責務への関心が高まり、獣医師のコンプライアンスの徹底や職業倫理の高揚についても要請が高まっている。
  (2) 喫緊の課題としての産業動物臨床獣医師等の養成・確保
 畜産業は、これまでの獣医師を含めた関係者の努力により、我が国農業の基幹的部門へと成長を遂げてきたが、その一方で、産業動物に対する獣医療の提供面においては、産業動物を対象に診療を行う獣医師(以下「産業動物臨床獣医師」という。)及び都道府県に所属し主に家畜衛生行政に従事する獣医師(以下「公務員獣医師」という。)(以下「産業動物獣医師」という。)の確保について、地域によっては難しくなっているところがある。
 その背景として、獣医師の数自体が全体として不足している状況にはないものの、これらの産業動物分野へ就業を希望する獣医系大学の学生が直近の調査では2割程度と少ないことが要因と考えられており、このような状況の中で、将来的に獣医療が必要となる地域に確実に獣医療を提供することが求められている。特に、家畜伝染病発生時の防疫対応や疫学調査、飼養衛生管理基準の指導等を含む家畜伝染病予防法に係る業務の多様化に加えて、農場HACCP に係る指導等の新たな業務の需要が高まっており、これらの業務を担う産業動物獣医師に対する社会的ニーズが益々高まっている。
 このため、今後とも、安全で良質な畜産物を安定的に提供していくためには、これら獣医療の提供が不足すると見込まれる分野や地域において安定的に獣医療を提供する体制の整備が必要となっている。
  (3) 高度な獣医療の提供に対する社会的ニーズの高まり
 また、犬、猫等の家庭で飼育する小動物については、国民の動物愛護に対する更なる意識の向上等に伴い、国民生活におけるその位置付けは益々向上している。近年では小動物と飼育者との精神的な結びつきが注目され、小動物の飼育が子供や高齢者の健康等に効果があるとの知見もあり、小動物臨床獣医師は、これら小動物の健康を通じて、広く社会に貢献していると言える。このような中で、飼育者の求める獣医療の内容は複雑化・多様化しているが、動物福祉や人獣共通感染症対策の観点から、その適切な飼育と飼育責任についても飼育者自身の意識を高める必要性がある。
 このような飼育者や社会のニーズに応じるため、良質かつ適切な獣医療技術の提供とともに、動物に対する総合的な保健衛生指導及び適切な飼育の推進に関する普及・啓発や、小動物分野を中心に、抗体医薬、核医学等の最先端医療技術や高度な医療機器を使用した最新の診断・治療・予防技術の獣医療現場への導入が求められている。特に、小動物分野では、獣医師による高度かつ多様な診療技術のみならず、飼育者に十分なインフォームドコンセントを得ながら診療を進める等、飼育者の意向も総合的に勘案した獣医療の提供が求められており、このためには、獣医師と、愛玩動物看護師を含めた動物の看護に従事する者との連携によるいわゆるチーム獣医療の提供の必要性が高まってきている。
 また、高度な獣医療の提供については、畜産業の現場からも、経営の安定や生産性の向上を図る観点から、最新の診断技術や治療方法の積極的な導入について要請されており、代謝プロファイルテスト、ICT技術等を活用した飼養管理、超音波検査機器、エックス線装置等を利用した画像診断等、獣医療に関連する技術の普及の必要性が高まっている。さらに、牛、豚等の産業動物分野では、家畜人工授精師、削蹄師等の獣医療に関連する他分野の専門職との連携をさらに進める必要がある。
 2 基本方針の策定に当たっての留意事項
 このような状況に対処し、我が国の獣医療が、今後とも畜産業の健全な発展、動物の保健衛生、公衆衛生及び食品の安全性の向上に寄与していくよう、また、将来的にも社会的ニーズに応え得るよう、獣医療を提供する体制の整備を図ることとし、今次基本方針の策定に当たって具体的に以下の点に留意した。また、国及び都道府県は、基本方針及び都道府県計画(獣医療法第11条第1項に規定する都道府県計画をいう。以下同じ。)の実現に資するため、取組状況の定期的な検証を行うとともに、関係者に対する助言、指導その他の援助の実施に努めることとする。
  (1) 社会的ニーズに対応した獣医療を提供するための獣医師の養成・確保
 畜産業の健全な発展、動物の保健衛生、公衆衛生、食品の安全性の向上等の社会的ニーズに応え、直面する課題に対応するには、効率的かつフレキシブルな獣医療の提供体制の整備が求められる。これまでと同様に、獣医系大学の学生が産業動物臨床分野や公務員分野に触れる機会の提供及びこれらの分野へ就業・定着を図る取組を推進することに加え、育児等で離職した獣医師、定年で退職した獣医師等、最前線で活躍した経験を持つ獣医師を業務内容に応じて登用する等、人材の有効活用を図る。また、これまで以上に効率的かつ迅速な獣医療の提供ができるよう情報通信技術の開発・活用を検討する。さらに、獣医療に対する国民の信頼の確保を図るため、獣医師が獣医療技術の修得を図る機会を増大し、臨床獣医師として必要な技術の高位平準化を図る。なお、臨床研修の実施については、獣医師法(昭和24年法律第186号)第16条の2第1項に規定する農林水産大臣が指定する診療施設(以下「大臣指定診療施設」という。)と連携しつつ、産業動物臨床分野及び小動物分野それぞれに応じた体系的なカリキュラム等に基づく研修の実施を促進する。
  (2) 良質かつ適切な獣医療の提供に向けた獣医師と関係者との連携・協力の推進
 獣医師、愛玩動物看護師等の獣医療に携わる他分野専門職及び飼育者との連携・協力のあり方について、獣医師の組織する団体等において検討すること等により、飼育者のニーズに対応した、より質の高い獣医療の提供に向けた取組を推進する。
 3 産業動物臨床分野及び公務員分野における獣医療の確保
 我が国の畜産業は、飼養規模が拡大する中、家畜改良による個体能力の向上、受精卵移植技術等により、技術的側面からも生産基盤の強化が推進されている。そのような状況において、産業動物臨床分野及び公務員分野への新規獣医師の参入の減少、産業動物臨床獣医師の高齢化に加え、家畜疾病の複雑化・多様化、事前対応型の防疫体制の確立、家畜伝染病の大規模な発生に対する危機管理体制の再点検・強化、生産者が求める飼養衛生管理技術の向上のための指導の実施等の課題に対処する必要がある。
 このような課題に対応するため、今後の獣医療を提供する体制の整傭を推進するに当たっては、産業動物獣医師がHPAI 、CSF 等の家畜伝染病の防疫や食品の安全確保に重要な役割を担っていることを十分に認識し、以下の方策を講ずることによって、より的確で効率的な獣医療の提供体制の確保を図ることを基本とする。
  (1) 産業動物獣医師の確保
   ①  獣医系大学の学生は参加型臨床実習やインターンシップを就業先選択の判断の一助としていることから、獣医学生に産業動物臨床分野及び公務員分野での業務を実地に経験させることが重要となる。このため、これらの分野が獣医師の活躍の場として期待されるとともに、これらの分野への就業が魅力あるものであることを認識してもらうため、臨床実習等を活用して職場経験の機会を設けるなど、農業共済組合、農業協同組合等の関係団体(以下「農業関係団体jという。)、家畜保健衡生所等と獣医系大学が連携して、学生が産業動物の診療及び家畜衛生等の行政の意義や魅力について知る機会を確保する取組を推進する。また、未来の獣医療の担い手を更に発掘すべく、大学入学直後の学生等の若齢層をターゲットとし、広く産業動物獣医師の仕事について広報する機会の確保を図る。
   ②  産業動物臨床分野及び公務員分野への就業及び定着を図るため、獣医師確保が困難な地域の地元学生、当該地域での就業意識が高い学生等を対象として、これらの分野への誘引を図るための措置の一層の活用を図る。また、各団体、自治体等における労働条件に関する情報の共有等を通じて、これらの分野における業務量に見合った人員確保、業務の社会的重要性を考慮した就業に係る条件等の労働をめぐる環境の改善を図る。
   ③  新規就業後に早期に離職する者が一定程度存在する中で、産業動物以外の分野から産業動物臨床分野及び公務員分野へ就業する獣医師が存在することから、学生のみならず、離職者に対するこれらの分野への就業誘導に係る取組を推進する。
   ④  家畜伝染病発生時等、緊急に獣医師の確保が必要となる場合に備え、平時から、公務員獣医師退職者等の潜在的人材を確保するとともに、家畜防疫に関する技術・知識や防疫作業の内容について、産業動物獣医師に限らず、小動物分野を含むそれ以外の分野の獣医師に対して、地域の実態に合わせた 研修や演習の機会の確保を推進する。
   ⑤  近年では、新規獣医師のうち約半数が女性であり、女性獣医師が増加していることや働き方改革に対応する必要があることも踏まえ、雇用者は、獣医師の過重労働を回避するよう努めるとともに、男女ともに産休・育休が取得しやすく、長期にわたり育休等を取得していた女性が復職しやすい環境の整備を推進する。また、定年退職後も就業意欲を有する獣医師が多くいることから、様々な世代やライフステージの獣医師が活躍できる環境の整備を推進する。
   ⑥  産業動物の診療現場が次世代の獣医師にとってより魅力的なものとなるよう、傷病治療のみならず畜産農家の衛生対策や収益性向上につながる診療サービス等、提供する獣医療業務の内容の多様化や診療施設の収益改善が図られるような環境の整備を推進する。
 (2) 診療施設の整備並びに獣医療関連施設の相互の機能及び業務の連携
   ①  個人で開業している産業動物臨床獣医師、農業関係団体等による診療施設・診療機器の計画的な整備と効率的な配置に加え、診療施設間の機能分担・業務連携の強化を促進し、診療の効率化・迅速化及び診療内容の高度化を推進する。
   ②  特に産業動物診療に関しては、農場及び地域における適切な飼養衛生管理を確保するため、農場においてはいわゆるかかりつけ医である産業動物臨床獣医師と予防衛生に携わる産業動物臨床獣医師、地域においてはこれら獣医師と家畜保健衛生所の獣医師による連携を強化する環境の整備を推進する。
   ③  家畜伝染病の発生予防及び畜産物の安全性向上を図るため、家畜保健衛生所の機能を充実させて、病性鑑定機能の充実・強化、生産衛生管理機能の整備・充実を図る等、家畜伝染病の大規模な発生に対する危機管理体制の再点検・強化を推進する。
   ④  複雑化・多様化する家畜疾病の防除、畜産物の安全性向上等のための診療及び保健衛生指導の強化を図るため、家畜保健衛生所、民間検査機関等による抗体検査、遺伝子検査等の衛生検査結果、薬剤耐性菌の浸潤状況の調査結果、食肉衛生検査結果等の情報の活用を促進すること等診療施設その他獣医療に関連する施設の相互の機能及び業務の連携の促進を図る。
   ⑤  診療施設の廃止等に伴い獣医療の提供が行われない地域が生ずる場合には、近隣の診療施設からの獣医療の提供を促進する。この場合、農業関係団体等のみならず、必要に応じて、家畜保健衛生所等公的機関による補完を図るとともに、情報通信機器等を用いた遠隔地からの診療体制を確保する環境を整備する。なお、情報通信機器等を用いて遠隔地から診療を行うに当たっては、的確な診断に資するよう、産業動物臨床獣医師と畜産農家が密に連携して取り組むための環境を整備する。
   ⑥  農業保険法(昭和22 年法律第185号)に基づく農業共済組合の家畜診療所については、その多くが大臣指定診療施設に指定されるとともに、基幹的な診療施設として産業動物診療に大きな役割を担っており、家畜共済事業の推進のみならず、家畜衛生・防疫、畜産農家への食品安全に関する指導、産業動物臨床獣医師の養成、獣医学生に対する臨床実習等への協力、畜産農家のニーズに対応した指導等、様々な役割を果たしている。引き続き、各地域においてこれらの基幹的な役割を果たしている診療施設を中心に、当該地域において安定的に獣医療が提供されるよう、地域に応じた取組を推進する。また、大臣指定診療施設を含む基幹的診療施設等の産業動物臨床獣医師は、家畜の伝染性疾病の発生予防を図るため、家畜保健衛生所と連携して、畜産農家における飼養衛生管理の向上に対する指導に努める。
  (3) 獣医師の養成と獣医療技術に関する研修体制の体系的な整備
   ①  産業動物臨床分野の新規獣医師等が、大臣指定診療施設等における実践的な診療技術の修得、畜産農家とのコミュニケーション能力の向上、獣医療に関する法令及び食品の安全性に対する理解の醸成等を図る機会の増大を図る。
   ②  公務員分野の新規獣医師等が、家畜衛生分野、公衆衛生分野等の行政に携わっていく上で必要な、畜産・食品関連産業に係る内容も含めた基本的知識、病性鑑定技術等を修得する機会の増大を図る。また、家畜伝染病予防法に基づく飼養衛生管理基準の指導等や防疫措置の円滑な実施のための研修を推進する。
   ③  飼養規模の拡大が進展する中で、群管理形態の普及に対応した家畜の伝染性疾病の侵入防止や慢性疾病の発生低減等、予防衛生を中心とする的確な集団管理衛生技術の提供が重要になる。このため、産業動物臨床獣医師が、一般診療のみならず飼養衛生管理の指導が可能となるよう、必要な技能の取得を推進するとともに、集団管理衛生技術、農場経営、農場HACCP及び畜産GAPに関する知識・技術等の修得を図る機会を増大し、診療だけではなく、飼養、管理及び経営等を含む幅広い指導を行ういわゆる管理獣医師として畜産農家の生産性の向上に資するような取組を推進する。
   ④  事前対応型の防疫・衛生管理体制及び家畜伝染病の大規模な発生に対する危機管理体制の再点検・強化のため、産業動物臨床獣医師が防疫指導に係る知識・技術等の修得を図る機会を増大し、サーベイランスにおけるデータ収集及びそれに基づく指導、緊急時の防疫指導を実践する獣医師の養成等を推進する。また、産業動物臨床獣医師が高度な診療機器を使用した診療技術や最新の効率的な診断・治療技術の修得及び畜産関連産業等の知識・経験の修得を図る機会の増大を図る。
   ⑤  馬、めん羊、山羊等飼養される地域が特化されている家畜に関しては、今後とも当該地域における適切な獣医療を提供する体制を確保するため、これらの家畜について診療を行う獣医師の養成を推進する。また、乗用馬等、地域によってはその畜種を専門とする獣医師が育ちにくい家畜等の獣医療分野についても、他の畜種を専門とする獣医師が併せてその畜種を診療することができるよう、獣医師の養成を推進する。
   ⑥  畜産や水産の生産現場での抗菌剤の不適切な使用は薬剤耐性菌の増加を招き、その結果、人や動物の治療が困難になるおそれがあることから、産業動物臨床分野や公務員分野、水産養殖業の分野に従事する獣医師に対し、薬剤耐性に関する知識の普及を図るとともに、飼育者に適切な説明を行うよう理解を促す。併せて、人獣共通感染症に関する知識の普及・啓発も図る。
   ⑦  獣医師の社会的役割に関する意識を醸成したり、産業動物臨床分野や公務員分野の業務に対する自己の適性を予め把握したりする観点から、獣医系大学の学生に対しても、大臣指定診療施設等における臨床実習等を通じて、これらの分野の業務に関する理解の向上を促す機会の確保を図る。
   ⑧  畜産農家が獣医療の内容やその費用について理解した上で安心して獣医療を受けられるよう、獣医師の畜産農家に対するインフォームドコンセントの徹底について啓発を図る。
 4 小動物分野における獣医療の確保
 小動物分野の獣医療においては、飼育者から、良質かつ適切な獣医療技術の提供とともに、より高度かつ広範な診療技術の提供、丁寧かつ的確な診療内容の説明及び保健衛生指導が求められており、国民生活における小動物の位置付けが家族の一員となっている状況等を背景として、この傾向が今後とも継続するものと考えられる。したがって、小動物分野においては、飼育者のニーズに適切に対応した獣医療を提供し得るよう、診療技術の修得体制及び保健衛生指導の充実の促進を図る。
 また、獣医師の組織する団体等が中心となって進める診療施設の専門化と機能分担に関する合意形成の促進を図るとともに、専門性を持った獣医師の能力に関する情報が飼育者に正しく提供され、飼育者が期待する診療を受診できる環境の整備を推進する。
 さらに、愛玩動物看護師法の成立により、小動物診療において獣医師の担う業務と愛玩動物看護師の担う業務の明確化を踏まえた適切な役割分担と連携を通じたいわゆるチーム獣医療提供体制の充実が期待されることから、体制の確立に向けて獣医師と愛玩動物看護師の連携の強化を図る。
  (1) 獣医師の養成と獣医療技術に関する研修体制の体系的な整備
   ①  新規獣医師等が、実践的な診療技術の修得、飼育者とのコミュニケーション能力の向上、獣医療に関する法令に対する理解の醸成等を図る機会の確保を図る。
   ②  小動物臨床獣医師が、高度な診療機器を使用した診療技術や最新の効率的な診断・治療技術の修得を図る機会の確保を図る。
   ③  獣医師の社会的役割に関する意識を醸成したり、小動物分野における必要な能力や技能の理解を深めたりする観点から、獣医系大学の学生に対して、小動物の診療業務に関する認識の深化を促す機会の確保を図る。
  (2) 小動物診療におけるチーム獣医療提供体制の充実
   ①  愛玩動物看護師法が適切に運用されるよう、獣医師の組織する団体や愛玩動物看護師の組織する団体等が中心となり、いわゆるチーム獣医療の提供体制に関する環境の整備を推進する。また、愛玩動物看護師が獣医師の指示の下に行う診療の補助が適切に行われるよう、法令の規定及び必要となる留意点について、獣医師の組織する団体や愛玩動物看護師の組織する団体等が中心となり、周知を図る。
   ②  愛玩動物看護師の役割について、獣医療関係者のみならず、飼育動物の飼育者に対し、理解の醸成を図る環境の整備を推進する。
  (3) 小動物の飼育者に対する人獣共通感染症対策の観点からの保健衛生指導の充実を推進する。また、小動物分野の獣医療に対する監視指導体制の整傭及び獣医療に関する相談窓口の明確化を図る。
  (4) 高度かつ多様な診療技術を提供していくため、獣医師の組織する団体等が中心となって進める診療施設の専門化及び一次診療施設と二次診療施設の連携・協力の確保等に関する合意形成を促進し、地域獣医療のネットワーク体制の整備を推進する。
  (5) 小動物診療の現場における薬剤耐性対策への取組に当たっては、獣医療関係者とともに小動物の飼育者の理解も不可欠であることから、獣医師の組織する団体等を中心として、抗菌剤等の適正使用・慎重使用を推進するとともに、薬剤耐性対策の取組の重要性について、普及・啓発を図る。
  (6) 飼育者が獣医療の内容やその費用について理解した上で安心して獣医療を受けられるよう、獣医師の飼育者に対するインフォームドコンセントの徹底について啓発を図る。
  (7) 近年では、新規獣医師のうち約半数が女性であり、女性獣医師が増加していることや働き方改革に対応する必要があることも踏まえ、雇用者は、獣医師の過重労働を回避するよう努めるとともに、男女ともに産休・育休が取得しやすく、長期にわたり育休等を取得した女性が復職しやすい環境の整備を推進する。
 5 獣医療に関する技術開発
 獣医療に関する技術開発の分野においては、農場単位や群単位での飼養形態に対応した管理技術、超音波検査機器、コンピュー夕断層撮影装置等による精度の高い診断技術、抗体医薬、核医学、再生医療等の医療技術の獣医療領域への導入と普及等に対する需要が増大するとともに、人工知能(AI) 等を活用した新技術の開発・応用及び国際的な感染症対策への獣医師の貢献に対する期待が高まっている。
 このような社会的ニーズに対応するためには、以下の方策を講ずることによって、獣医療を提供する体制の整備の推進に資することとする。
  (1)  HPAI、CSF 、アフリカ豚熱(ASF)、口蹄疫等の家畜伝染病の発生予防・まん延防止のため、家畜保健衛生所等の獣医師による飼養衛生管理等の確認と指導等に資するよう、情報通信技術の活用を検討する。
  (2)  家畜伝染病のみならず、インフルエンザ、アルボウイルス感染症等新興・再興感染症対策のための技術開発、「One Health」の考え方に基づく学術研究等について、産学官が連携して推進を図る。
  (3)  電子指示書や電子カルテの普及に伴い、将来的に獣医療領域でAIが活用される時代が到来することに備え、獣医師の組織する団体等が中心となり、獣医療に関するデータの活用に向けた環境の整備を推進する。
 6 その他重要な事項
  (1)  動物の健康の維持・増進や伝染性疾病の侵入の防止を図るためには、飼育者が衛生管理を適切に実施することが重要である。特に畜産農家は、自己が飼養する家畜における伝染性疾病の発生を予防し、まん延を防止することについて責任を有していることから、家畜伝染病予防法に基づく飼養衛生管理基準の遵守のために必要な知識・技術を修得する必要がある。また、畜産農家は、食品の安全性確保への責務を有することから、食品安全に関する知識を習得する必要がある。このため、畜産農家に対するこれらの情報提供についての期待が高まっている。
 よって、畜産農家に対する家畜衛生に関する知識・技術や獣医療に関わる畜産農家の役割についての一層の啓発・普及に努めるとともに、食品の安全性の向上に関する知識についての周知に努める。
 また、小動物の飼育者に対しては、人獣共通感染症対策を効果的に推進していく観点から、感染症の予防に関する情報の提供に努める。
  (2)  産業動物、小動物ともに救急傷病への適切な対応が要請されていることから、産業動物については、地域の実情を踏まえ、農業関係団体、自治体等の関係者で調整を図り、獣医師が適切に診療に対応できる体制を整備する。また、小動物については、獣医師の組織する団体等が中心となって、夜間・休日における診療体制の整備について合意形成を図り、併せて夜間・休日に診療を提供する診療施設に関する広報活動の促進を図る。
  (3)  水産養殖業の分野については、養殖業の成長産業化を推進するため、魚病対策の迅速化に向けて適切な獣医療が提供されるよう獣医師の養成を推進するとともに、水産試験場等の公的機関や養殖関係者と連携して取組を推進する。
  (4)  専門的な診療を求める飼育者の選択に資するよう、獣医師の組織する団体等が中心となって、獣医師の専門性を認定等する仕組みの構築について検討を進める。また、獣医師の専門性を国民が適切に認知できるような獣医療広告のあり方について検討を進める。
  (5)  診療の高位平準化を推進するため、根拠に基づく獣医診療手法(EBVM) の確立が図られるよう、獣医師の組織する団体等が中心となり、検討を進める。
  (6)  食品の安全性や獣医療に対する信頼の向上を図るため、獣医療の果たす役割について国民の理解を醸成する取組の推進を図る。



第 2  診療施設の整備及び獣医師の礁保に関する目標の設定に関する事項
 1 診療施設の整備に関する目標
 都道府県計画において診療施設の整備に関する目標を設定するに当たっては、各々の診療施設の機能の向上を図るとともに、診療技術の高度化の進展や診療提供形態の多様化に対する飼育者のニーズの動向、獣医療の需給状況等を勘案し、疾病の予防、治療及び保健衛生指導から集団管理衛生技術及び獣医療関連情報の提供に至るまでの包括的な獣医療が提供できる体制を確立することを基本とする。
 この場合、現在における診療施設・診療機器の整備状況、農業関係団体等の診療施設の統廃合等を踏まえ、疾病の発生状況、今後における飼養見通し等を勘案して、基幹的診療施設を始めとした各々の診療施設の機能が十分発揮され、診療の高度化が図られるよう、当該診療施設の開設者等を含む獣医療関係者間の意見の調整を十分に図った上で、目標年度における診療施設・診療機器の整備を図ることとする。
 また、農業関係団体等の診療施設、家畜保健衛生所、大学の診療施設等は、診療機器の整備の状況を勘案し、当該施設と各々の診療施設との有機的な連携を推進すること等により、診療施設の整備が効果的に行われるよう配慮することとする。
 2 獣医師の確保に関する目標
 都道府県計画における獣医師の確保については、特に産業動物獣医師の確保を図ることとし、産業動物臨床獣医師については、その具体的な目標を設定することとする。
  (1)  産業動物臨床獣医師
 目標年度における畜種ごとの飼養頭数又は飼養戸数を目標年度における畜種ごとの獣医師1人当たりの年間診療可能頭数又は戸数で除して得られた数をその確保目標とするものとする。なお、目標年度における獣医師1人当たりの年間診療可能頭数又は戸数を求めるに当たっては、①産業動物臨床獣医師の年齢構成、②最近における離職又は廃業及び新規参入の状況、③畜産農家の分布状況(平均往診時間等)、④診療施設・診療機器の整備状況、⑤基幹的診療施設等の獣医療関連施設の機能分担及び業務連携の状況、⑥管理獣医師の養成及び活動状況、⑦産業動物臨床獣医師の傷病、出産・育児等による一時的な獣医師の不足に対応した診療体制の整備状況、⑧畜産農家の飼養状況や飼養衛生管理の指導に対するニーズ等、地域の実態を十分に踏まえつつ、診療の効率化の進捗を勘案することとする。
  (2)  公務員獣医師
 家畜防疫員が行う業務が多様化していることを踏まえ、家畜伝染病に対する危機管理の観点から、都道府県に勤務する公務員獣医師の確保を図ることとする。確保を図るに当たっては、①家畜防疫員の年齢構成、②定年退職者や再任用の状況、③畜産農家の規模と分布状況、④家畜の伝染性疾病の発生状況、⑤家畜保健衛生所の立地や機器の整備状況等、地域の実態を十分に踏まえることとする。



第 3 獣医療を提供する体制の整備が必要な地域の設定に関する事項
   都道府県計画においては、診療施設の整備に関する目標又は獣医師の確保に関する目標を達成するため計画的な取組が必要と見込まれる地域であって、市町村における酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための計画等の畜産振興計画が策定されるなど将来にわたり産業としての畜産の振興が見込まれる地域又は地域獣医療の公益性が考慮される地域を、獣医療を提供する体制の整備が必要な地域として設定するものとする。
 将来にわたり畜産の振興が見込まれる地域の場合、当該地域の範囲については、畜産の立地条件、交通事情、都道府県の行政区域等を考慮して、獣医療を提供する体制を一体的に整備していくことが相当であると認められる地域となるように配慮するものとする。
 また、地域獣医療の公益性が考慮される地域の場合、当該地域の範囲については、地域社会のニーズを十分に考慮して、離島、中山間地域等の獣医療の提供体制の確保が十分とはいえない地域における適切な獣医療の確保等の公益性が認められ、獣医療を提供する体制を整備していくことが相当であると認められる地域となるように配慮するものとする。



第 4  診療施設その他獣医療に関連する施設の相互の機能及び業務の連携に関する基本的事項
   獣医関連施設については、効率的な診療体制の整備を図るため、地域の実情を十分に踏まえ、これらの施設が有する機能及び業務の有機的な連携の促進を図るものとする。
 したがって、都道府県計画においては、獣医療を提供する体制の整備が必要な地域として指定された地域について、次の事項に配慮し、相互の機能及び業務の連携を行う施設の内容及びその方針を定めるものとする。
 1 組織的な家畜防疫体綱の確立
 家畜保健衛生所を核とし、民間の獣医師、畜産農家等の連携の下で、家畜伝染病及び新疾病に対するサーベイランス体制の強化、飼養衛生管理基準の遵守状況の確認・指導等、平時における家畜の伝染性疾病に対する防疫体制の整備を図る。また、家畜伝染病の大規模な発生に対する危機管理体制の再点検・強化のため`家畜防疫員の確保、公衆衛生分野、野生鳥獣分野等の農林水産分野以外の組織に属する公務員獣医師との連携、発生都道府県への家畜防疫員等獣医師の派遺体制、公務員獣医師退職者等の潜在的人材の確保、産業動物臨床分野や公務員分野のみならず小動物分野を含む民間の獣医師等の防疫活動への支援体制、診療施設間の連絡・応援体制等について、各地域における獣医師や獣医師の組織する団体等の連携の下で整備を図る。これらにより、家畜保健衛生所と民間の獣医師等が一体となった組織的な防疫体制の確立を推進する。
 2 診療施設・診療機器の効率的利用
 診療の迅速化・的確化を推進する上では、診療施設・診療機器の高度化を図ることが重要であるが、高度な診療機器等を各々の診療施設において整備することは過剰な設備投資につながるおそれがある。このため、診療施設間の連携・協力の下での機能分担を促進するとともに、農業関係団体、大学等の診療施設、家畜保健衛生所等診療施設・診療機器の整備が比較的進んでいる施設がある地域においては、当該施設の業務に支障がない範囲において、地域の産業動物臨床獣医師等が当該地域の診療施設・診療機器を利用することを推進するなどその効率的な利用を促進する。また、家畜保健衛生所における飼養衛生管理等の確認・指導等を効率的に行うため、情報通信技術の活用を検討する。
 3 獣医療情報の提供システムの整備
 診療施設相互の機能が円滑に発揮されるよう、臨床獣医師、農業関係団体、家畜保健衛生所、大学、民間診療施設等の獣医療関連機関の相互の情報交換のための組織化を図る。また、抗体検査、遺伝子検査等の衛生検査結果、薬剤耐性菌の浸潤状況の調査結果、食肉衛生検査結果等の情報を診療及び保健衛生指導に活用するための獣医療情報の提供システムの整備を推進する。
 4 衛生検査機関との業務の連携
 畜産経営における規模拡大や集約化が進展し、獣医療提供の重点は、今後とも個体を中心とした診療技術から、農場単位や群単位での集団管理衛生技術に移行するものと考えられる。集団管理衛生技術においては、環境衛生、飼養衛生、血清診断等総合的かつ高度な専門技術を必要とするが、このうち、特殊な機器や施設を必要とする技術については、家畜保健衛生所、民間検査機関等を活用する等衛生検査機関との業務の連携を促進する。
 5 診療効率の低い地域に対する診療の提供
 診療施設の廃止、地域の家畜の飼養状況の変化等により、診療の提供が困難となる地域又は診療効率の低い地域が発生する場合には、近隣の診療施設による診療の提供や診療施設の効率的配置により、当該地域に対する診療を提供する体制の整備を促進する。
 それでもなお、十分な診療の提供が確保できない場合には、獣医療関係者間の意見の調整を十分に図った上で、家畜保健衛生所等公的機関による補完的な診療の提供に努めるほか、遠隔地等における診療の効率化を図るため、情報通信機器等を用いた診療体制を確保する環境を整備する。
 6 産学官が連携した研究開発
 CSF、ASF、口蹄疫等の家畜伝染病の発生予防・まん延防止に係る技術の開発・普及、新興・再興感染症の対策、「One Health」の考え方に基づく国際的な取組等の新たな社会的ニーズに対応した獣医療に係る研究・技術開発のため、民間企業、大学、研究機関及び行政の獣医師の連携を促進する。



第 5 獣医療に関する技術の向上に関する基本的事項
   獣医療技術については、獣医学の進展、診療機器及び医薬品の開発・普及等に対応して、今後ますます高度化・多様化することが見込まれることから、地域における獣医療のニーズに応じ、その適切な普及を図るものとする。
 したがって、都道府県計画においては、次の事項に配慮し、地域の実情に応じ、研修への計画的な参加を促進する等獣医療に関する技術の向上に関する事項を定めるものとする。
 1 臨床研修
  (1)  臨床現場における実践的獣医療技術、法令、食品のリスク管理、家畜伝染病発生時の防疫措置を含む家畜衛生、公衆衛生、畜産・食品関連産業等に関する知識·技術の修得を図るため、臨床研修施設としての大学と大臣指定診療施設等の民間診療施設の連携を促進しつつ、新規獣医師のうち診療分野に就業する者を対象とする臨床研修への参加の促進を図る。
  (2)  公務員分野においては、家畜衛生、公衆衛生、動物愛護管理等の行政に携わっていく上で必要な知識・技術及び畜産関連産業等の知識・経験の修得を目的として実施される技術研修、講習会等への参加の促進を図る。また、飼養衛生管理基準の指導や防疫措置の円滑な実施のため、家畜保健衛生所のみならず、産業動物臨床獣医師、農林水産分野以外の公務員獣医師等も対象とした研修や演習を推進する。
 2 高度研修
  (1) 産業動物臨床分野や公務員分野においては、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門等において開催される講習会により、地域における獣医療技術の普及の担い手となる指導者の養成を図るとともに、当該指導者による地域の獣医師への技術指導等を計画的に行い、地域の獣医師の技術の向上を推進する。
  (2)  小動物分野においては、専門分野別の技術の向上が今後ますます重要となることから、専門性の高い獣医療技術の修得を目的として実施される技術研修、獣医師の組織する団体等が開催する学会、研修会、講習会等への参加の促進を図る。
  (3)  産業動物臨床獣医師が最新の獣医療技術を用いた獣医療を提供していくため、農業関係団体等の施設を利用した集団管理衛生技術、高度診療機器による診断・治療技術等の修得を目的として実施される技術研修、獣医師の組織する団体等が開催する学会等への参加の促進を図る。
 3 地域の実情に応じた研修
  (1)  馬、めん羊、山羊等飼養される地域が特化されている家畜について、地域の実情を勘案した上で獣医師の養成を推進する。また、乗用馬等地域によって専門とする獣医師が不足する畜種については、他の畜種を専門とする獣医師に対する研修等を通じて、獣医師が不足する当該畜種の診療技術の向上を推進する。
  (2)  水産養殖業の分野においては、地域の水産養殖業者のニーズに合わせて、都道府県の水産試験場等と連携して獣医師の養成を推進する。
 4 生涯研修等
  (1)  臨床獣医師が、日進月歩する獣医療技術及び海外悪性伝染病、新興・再興感染症等に関する知識・技術を適時適切に取り入れることにより、社会的ニーズに対応した獣医療を提供していくため、獣医師の組織する団体等が開催する研修会等への参加や当該団体等が提供する教材等の利用の促進を図る。
  (2)  研修施設への移動が困難な地域等に勤務する獣医師についても、情報通信機器等を活用した教材の利用による研修の促進を図る。
  (3)  離職·休職中の獣医師を対象とした技術研修への参加の促進を図る。
  (4)  生涯研修や高度研修を基礎とした臨床獣医師の技術向上について、診療分野専門別のニーズに合わせ、これを推進する。



第 6 その他獣医療を提供する体制の整備に関する重要事項
  都道府県計画においては、獣医療を適正に提供する観点から、次のような事項に配慮し、地域の実情に応じ、獣医療を提供する体制の整備に必要な事項を定めるものとする。
 1 行政分野において適切に獣医療が提供できる体制の整備
 産業動物臨床や家畜衛生行政に加え、公衆衛生行政や動物愛護管理行政、さらには野生動物管理等の自然環境保全や小動物獣医療も勘案し、地域の獣医療の状況を十分に把握するとともに、監視指導体制の整備や獣医療に関する相談窓口の明確化等の具体的な対策について検討の促進を図る。
 2 飼育者の衛生知識の啓発・普及等
  (1)  産業動物臨床分野や公務員分野においては、自衛防疫活動の強化を始めとして、畜産農家に対する家畜衛生や食品の安全性の向上に関する知識・技術の一層の啓発・普及に努めるとともに、農場HACCP や畜産GAP の普及の促進を図る。
  (2)  飼育動物の適切な健康管理を図るため、飼育者に対する衛生知識の啓発・普及及び健康相談活動の促進を図る。
 さらに、獣医師によるインフォームドコンセントの徹底、獣医師の組織する団体等による獣医療相談窓口の設置、獣医師の組織する団体等が中心となって進める診療施設の専門化・機能分担、夜間・休日における診療体制の整備に関する合意形成等適切な獣医療の提供のために必要な条件整偏の促進を図る。
 3 広報活動の充実
 夜間・休日に診療を提供する診療施設、専門性の高い診療技術を提供する二次診療施設等に関する広報活動の促進を図る。
 4 診療施設の整備
 都道府県計画に基づき診療施設の整備を推進する場合には、獣医療法第15条の規定に基づき、株式会社日本政策金融公庫が実施する農林漁業施設資金の融資について一層の活用を図る。