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テーマ「人獣共通感染症」

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更新日

2019/03/29

この地球上にはたくさんの生命が暮らしています。人、動物、植物だけではなく、人の目には見えない小さな生き物も存在します。細菌やウイルスと呼ばれる、人や動物が誕生するよりもずっと前に地球上に誕生し、小さいがゆえに増殖力や環境に適応する能力が高い生物です。
細菌は、人や動物の消化管内に多種多様の種類が共存し、食べ物の消化を助けます。また、日本酒などのお酒、納豆などの発酵食品は、細菌の特有の代謝能力を借りて、よりその栄養価を高めています。
ウイルスは、バイオサイエンスの世界で、ワクチンや新薬の開発など人間にとって有用な働きをしてくれます。
一方、一部の細菌やウイルスは、感染症の原因となるものもあります。その中でも、人と動物の両方に感染する病気を『人獣共通感染症』と呼びます。
例えば、食中毒を起こすイメージがあるサルモネラ菌はたくさんの種類が存在します。自然界にも存在し、家畜や伴侶動物(※1)も保菌していますが、人間のような症状を出さないことが多いです。
狂犬病は狂犬病ウイルスが原因で、人を含む哺乳類に感染し、発症すると人も動物も治療法がありません。日本国内では1957年に撲滅されたとされていますが、残念なことに現在でも全世界で年間約5万人(※2)が命を落としています。島国の台湾は狂犬病清浄国でしたが、2013年に野生動物と飼い犬の発症が確認されました(※2)。日本においては、動物輸入時の厳しい検疫、犬は登録と年一回の予防接種が飼い主に義務付けられ、清浄状態が保たれていますが、油断は禁物です。
最近注目を集めている、重症熱性血小板減少症候群は、ウイルスが原因でダニの吸血を介して人だけではなく、野生動物、伴侶動物の猫や犬にも感染します。しかし、近年、ダニに咬まれた猫や犬が感染し、さらに世話をしていた人にも感染するケース(※3)(※4)が報告されています。現時点では西日本で発生していますが、野生動物にも感染するため自然界にウイルスは広がっている可能性も指摘されています。
人と野生動物の生活圏が重なり合うと、野生動物由来の感染症のリスクが高まります。野生動物との直接の接触だけではなく、ダニなどの吸血昆虫を介した感染症の広がりに注意が必要です。アウトドアレジャーが人気を博する今日、野生動物の生活圏に人間が足を踏み込んでいることを忘れてはいけません。

家族の一員である伴侶動物たち、愛くるしい仕草で私たちを癒してくれます。しかし、過剰な接触は、人獣共通感染症の感染リスクを高めます。多くの人獣共通感染症は、動物たちの日々の健康管理に気を配ること、そして人と動物が適切な距離感で接することで予防できます。私たち獣医師は、正確な情報、動物との付き合い方のアドバイス、そして動物の健康を守る獣医療を提供します。そして、人と動物の健康を守ります。

【参考資料】
※1 国立感染症研究所 『サルモネラ感染症とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ta/tick-encephalitis/392-encyclopedia/409-salmonella.html

※2 厚生労働省 『狂犬病』
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/

※3 感染疑いのある猫より人に感染した事例

1 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に係る注意喚起について(厚生労働省通知 健感発0724第3号 平成29年7月24日)

2 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html

※4 SFTS発症犬より人が感染した事例
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症したイヌからヒトへの感染事例について(平成29年10月10日 徳島県)
https://anshin.pref.tokushima.jp/docs/2017100600038/


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